Credits
PERFORMING ARTISTS
GOUDO
Performer
COMPOSITION & LYRICS
GOUDO
Lyrics
SHIBAO
Composer
Lyrics
「好きなことをして それで食べていける人なんて
その中でも ほんの一握りの限られた人達だけなんやから
その一握りであるわけないねんから ちゃんと現実を見て
まじめに働きなさい」
「すげぇな 違う言葉やのに 語尾が同じように聞こえるな」
韻に魅せられ CDを借り漁る
次から次へと聴くも 全く飽き足らず
ラッパーは皆 垢抜けてて
クラスのイケてる側に似てて
だから俺とは程遠いジャンル
けど聴いてると 自分まで強くなれてる気がする
歌詞カードを片っ端からコピー
布団に寝転び 地図みたいに読み
夢中で追う 文字列の母音
その内 自分でもしたいと思うように
ステージに立つところを妄想した
リリックまがいをノートに書く
それを見られるのは 何よりも嫌
隠し場所は エロ本の下
「フリースタイル? 嘘やん
考えて書いてもうまいことビートに乗せられへんのに 即興で?
しかも韻まで踏むん? ゼッタイ無理や」
それがほんまに即興なんか それとも作ってきたラップなのか
どの雑誌にも答えは載っておらず
どうしても知りたくなった高二 大阪であると知ったMCバトルを見に
入れるのか不安やったゲート
事前に調べた 今年二十歳の干支
無事通過でき 手渡されるドリチケ
使い方が分からず ポケットに入れる
知ってる人など 一人もいない
痛感してた 明らかに場違い
けど朝までずっと嬉しかった
「ここにおれてることが夢みたいや」
「ラップに興味あんの? 私の彼氏ラッパーでさ 今度イベント遊びに来ん?」
高三 クラスでもトップクラスにかわいい女の子 ラッパーってこんな子と?
「チケットってどうやったら買えん? え? 直接? すげえ 何円?」
たぶん得意顔で 「俺一回クラブ行ったことあんねん」
入口で迎え入れてくれたその子は 教室におる時よりもずっと大人に見え
俺は来たくて来ただけやのに 「ありがとう」と言われたことがすごく不思議で
朝方 紹介してくれたラッパーの彼氏とは 目を合わせられず ずっと足元を見てた
今日の日のために買った 新品のティンバーが急に恥ずかしくなった
「経済学部でラップしてる子おんねんて?」
大学の友人が紹介してくれた彼は 他のどの学生とも違う鋭い目をしてて 出会った瞬間に惹かれた
歩きながら披露してくれたフリースタイルの中に さっきの授業中の単語があり
いつかの夜 結局分からんかった 即興なんかの答えがしっかりとそこにあった
「好きなラッパーは?」 その答えが同じやったことをきっかけに
彼と仲良くなり 一緒にクラブにも行くような関係に
友達というよりも追いかけてる存在 彼が出てるイベントには必ず足をのばし
フロアがたとえ数人でも 俺には大衆を前にラップするヒーローに見えた
「ノート忘れてたで?」
彼の手元に俺のリリック帳
「大丈夫 中見てへんから安心して」
彼とノートを交互に見 …なあ、ちょっといい?
「見てくれへんかな? 俺自分でもラップ書いてんねん」
「このラインいいな」 "ペンダコ""内面だろ"
忘れもせん それが俺が生まれてはじめて人にほめてもらった韻だ
「神戸のピーズってクラブでさ 毎週月曜日に
マンデーっていう 入場無料のオープンマイクのイベントがあるらしいで?」
夜9時 意を決して家を出た 覚えはじめの酒を コンビニで買う
金もないから 安くて強い酒 それを忍ばせ ピーズのドアを開ける
座ってる人 レコードを覗く人 お菓子を食べてる人 爆笑してる人
今まで見た どのイベントにおる人達よりも 夜と友達でいるように見えた
どんだけ酔っても マイクを持つ勇気は出ず 遠くからステージをただ眺める
中でも存在感を放つ人達がいた "蟹バケツ"ってクルーやとあとから知った
入口に並んでるどのフライヤーにも その名前が一際ぶっとくある
俺がはじめて目にしたフッドスター 目を閉じれば あの日が すっと浮かぶ
アウェイに乗り込んで行ったつもりが ホームにおるような時間を過ごした
皆優しく声をかけてくれ 決まってこう言って去る 「来週もまたおいでや」
"初めて人前でマイクを持つ" その事実は得られんかったけど
その日 それ以上にほしかったものに出合った
"待ってくれてる人がおるかもしれん場所"
「ノルマ10が大丈夫やったらイベント紹介できるで? どう乗っかる?」
バイトの先輩からチャンスをもらう
二回目のマンデーでマイクを掴めた俺は
「是非」と返事することが出来
今までこっそり書き続け 覚える必要のなかったリリックを 覚える必要が生じたことがうれしく
両親が寝た後 下のリビングで 椅子をステージに見立てて 日々自主練
「日本語ラップの上で歌えたら だいぶ歌詞覚えられてる証拠やで?」
「俺の初ライブなんて散々でさ」 マンデーの皆 初ステージを控えた俺にいろんなアドバイスをくれた
「これよかったら来てください この名前が僕なんです」 フライヤーを名刺みたいに配る
「これいつあんの?」「来週の6月11日です」
初ステージからの景色は 強すぎる逆光でほとんど何も見えず
けどあのまぶしさの中には ライト以外のものも たしかに混じっていたように思う
そして俺は ラップを続けていく中で あの時逆光の先にあったものの正体に 巡り会えるような気がしている
エントランス付近で友人としまくったフリスタ 少し早めにクラブを出 振り返った二重扉の向こう
俺の運命を変えた夜がまだ残っているのかと思うと 少しの名残惜しさもあったが
それ以上に これから向かう先に胸を張れるような思いで 明るくなりかけてる 駅までの道を 一人 歩き出した
そこが大阪であったこともあってか ホームに始発電車がやって来た時
いつかの昔 俺をMCバトルまで運んでくれた電車と 同じ電車である気がした
その電車は俺にこう話しかける 「長かったな おつかれ さ、一緒に帰ろっか」
1stアルバム『三日月』のリリースを機に
ライブをすれば金が減ってた ノルマ地獄から
ライブをしてギャラを得られる状況に変わる
その分 ワクワクにプレッシャーが勝る
リハーサル 歓迎ムード 一色でなく
ピリついた 棘のような視線が混ざる
ノルマ20を売り切り 20人を前にライブした晩
俺も同じ目をしていたはず
2nd『こころ』も順調にセールスを記録
でも この頃 不安が一番大きかったと記憶
書くネタが尽きるんじゃないか?っていう恐怖
税金 さて、どう生きよう?
けど その後も順調にアルバムをリリース
出し惜しまず 一枚に全てを出し切る
その中で学ぶ
出し尽くせば 次のアイデアが自然と湧く
ある日のイベントで「食われた」と痛感
自分がゲストのライブで埋まっていた週末
気付けば 新しいものを生むより
あるものをいかに新しく見せるかばかりに 比重が
思い切って ライブ活動を休止
制作に打ち込む中で 様々な気付き
「ドラムの上にも空間」
「こう書けば 歌詞は立体化するんや」
ライブをしてた頃より はるかにラップをしまくってたが
ステージに立っていないってだけで 止まって見られることに
激しい違和感 目に物 大丈夫 今は我慢
アルバム四枚 『エール』がGOサイン
「見えんかったパンチがちゃんと見える」
再び あの恐怖に満ちたステージへ
七年目で一度やめかけたことがある
けど その時に やめんでよかった
偶然が重なってそうなったけど ほんまにそう思う
「仕事は十年続けて一人前」
憧れはしたが どこか信じはせず 十年以上続けた今
「あの言葉はほんまやった」
そこでの気付きが何であったか きっとそれを言葉にしてみたところで
それは俺の気付きを伝えることにはならず
経験を通して気付いてはじめて その気付きは実戦でつかえる
"宝を探す道のりが宝"っつー話じゃなく
"道のりがあってこその宝"
「あそこ天井どついてますよね?」
血みどろの小説家が 狭い居酒屋で 俺のリリックの話をしてくれている
その指摘は ことごとく 書いてる時の手応えと一致している
ある思いつきで 居酒屋を出る直前
コースターに文字を書き 裏向きに伏せ 店を出た
「二十歳? えっ じゃあ 一回り?」 20代半ば はるか先の未来のこととして描いたリリックの向こう側に
見返せば 至る所に青さを感じるが その青さを全く恥ずかしく思わん理由は
心の底からそう思って書いたことを 誰よりも知っているから
「今 月々の印税っていくらぐらいですか?」
プロモーションも手伝ってくれてる友人の質問に
先月の金額を答える
これ一本じゃ無理な時から知ってる彼は
金額を聞いたあと 涙してくれた
あの場面以降 俺は「これで食ってる」と言えるようになった
俺 初ステージの日 リハ終わって もっぺん会場入る時
システムがよー分からんで キャッシャーで入場料を払おうとしてん
んで スタッフの人に「演者は払わんでいいんですよ」って教えられ
こんな楽しい場所に無料で入れるなんてすげーなって思いながらサイフをしまったことを
何故か異様に覚えてんねん
俺が思うに 最弱やからこそ言えることなんやけど あの瞬間がある種 俺史上最強にも思え
俺が嬉しいんは そのキャッシャーに立ってる俺が 記憶の中で 今の俺と目が合っても ちゃんと笑うねん
「好きなことをしてそれで食べていける人なんて
その中でもほんの一握りの限られた人達だけなんやから まじめに働きなさい」
その一握りに入りたく その一握りに入れるのかを知りたく
ひたむきに挑み続け 何度も地面と目が合い ようやく分かったことがある
その道を突き進んだ先にあるのは 一握りどころか
食える食えんに関わらず 自分にしか用意されていない 一人だけの境遇で
どこまでいっても安心なんてものはなく 常にそこまでを一気に食い潰す怪物と隣り合わせで
そいつとどつき合いながら 日々は過ぎ去っていく
そこがどんなに隅っこでも
世界の中心でないわけがなく
そこがどんだけ後ろが眩しくても
今まで歩き続けて来た最前線
いつか世界がひっくり返った時
あの居酒屋のコースターも裏返り 裏っ側にあった文字が表を向く
"こうなることを知ってたぞ"
「これだけたくさん人がいる中で たった一人の自分が まさか」
これだけたくさん人がいる中で たった一人
自分の意志で動かせる自分を 特別だと思えん理由が 俺には分からん
Written by: 神門